ハイエナは、イヌのような姿で、骨をかみ砕き、「笑う」ような声を出す動物として知られています。しかし、同じハイエナ科には、狩りを得意とする大型種から、シロアリをなめ取る10kg前後のアードウルフまでいます。さらに最新の哺乳類分類では、従来1種とされたアードウルフが南部種と東部種に分かれ、現生ハイエナ科は5種とされています。
30秒で分かる要点
- 広く使われてきた分類では4種だが、Mammal Diversity Databaseの最新分類ではアードウルフを2種に分け、現生5種。
- ハイエナはイヌ科ではなく、ネコやマングースに近い「ネコ型類」の仲間。
- ブチハイエナは死肉だけに頼らず、自分たちで中・大型の草食獣を狩る有力な捕食者。
- シマハイエナとカッショクハイエナは腐肉をよく利用し、果実や昆虫、小動物も食べる。
- アードウルフ2種は、細い頭骨と長い舌で地表を歩くシロアリを食べる。
- IUCNではブチハイエナと旧来のアードウルフが低懸念、シマ・カッショクが準絶滅危惧。新しく分けられた東部アードウルフは未評価。
ハイエナ科は4種?5種?
多くの図鑑は、ブチハイエナ、シマハイエナ、カッショクハイエナ、アードウルフの4種を載せています。これは長く使われてきた分類で、IUCNの保全評価も基本的にこの単位です。
一方、American Society of MammalogistsのMammal Diversity Database(MDD)は、2021年のゲノム研究などを根拠に、東・北東アフリカのアードウルフをProteles septentrionalis、南部アフリカのアードウルフをProteles cristatusとして分けています。そのためMDDでは、骨を砕く3種とアードウルフ2種を合わせた5種です。
2種のアードウルフは分布域が大きく離れていますが、外見はよく似ます。日本語の標準名も十分に定着していないため、この記事では正確さを優先して「アードウルフ(南部種)」「アードウルフ(東部種)」と表記します。

現生5種を横並びで比較
| 種 | 体格・見分け方 | 主な分布 | 主な食べ物 | 社会・行動 | IUCN |
|---|---|---|---|---|---|
| ブチハイエナ Crocuta crocuta |
45〜80kgほど。丸い耳、短い毛、暗色の斑点。メスがやや大きい | サハラ以南のアフリカ。草原、疎林、半砂漠、山地 | ヌー、シマウマ、レイヨウなどを狩る。腐肉、骨、小動物も利用 | 母系の順位をもつ「クラン」。離合集散して行動 | LC 低懸念 |
| シマハイエナ Hyaena hyaena |
25〜45kgほど。大きな尖った耳、灰色の体に黒い縞、長いたてがみ | 北・東アフリカから中東、コーカサス、中央・南アジア | 腐肉と骨、人由来の食物。果実、昆虫、小動物も食べる | 主に夜行性で単独採食。巣穴では家族群をつくることがある | NT 準絶滅危惧 |
| カッショクハイエナ Parahyaena brunnea |
平均40kg前後。暗褐色の長い毛、明るい首、脚の横縞 | ナミブ・カラハリなど南部アフリカ。海岸砂漠にも暮らす | 腐肉、骨、海岸のアザラシ類の死骸、鳥、卵、昆虫、メロン類 | 小さなクランで共同育児。採食は単独が多い | NT 準絶滅危惧 |
| アードウルフ(南部種) Proteles cristatus |
8〜14kgほど。細身、大きな耳、縦縞、長いたてがみ。奥歯が小さい | アンゴラ、ザンビアから南アフリカ周辺の乾燥草原 | 主に地表を歩くシロアリ | 夜に単独採食。つがいと子が同じ縄張りを使う | LC相当の掲載 評価単位に注意 |
| アードウルフ(東部種) Proteles septentrionalis |
南部種によく似る。外見だけの産地判定は難しい | エジプト南部、スーダン、アフリカの角、ケニア、タンザニアなど | 主に地表性シロアリ。季節で利用する種類を変える | 夜行性、縄張り性。巣穴を利用 | NE 未評価 |
注:体重には地域差・個体差があります。LC=Least Concern(低懸念)、NT=Near Threatened(準絶滅危惧)、NE=Not Evaluated(未評価)。NEは「安全」でも「絶滅寸前」でもなく、新しい分類単位でまだ評価が終わっていないという意味です。IUCNの旧来のアードウルフ評価とMDDの2種分類は範囲が一致しません。
共通する体の特徴
5種は見た目と食事が違っても、ハイエナ科の基本設計を共有します。前脚が後脚より長く、肩が高く見える体つき、太い首、地面を長く歩く足、引っ込まない爪、においを付ける肛門腺などです。
| 特徴 | 骨を砕く3種 | アードウルフ2種 |
|---|---|---|
| 頭と歯 | 高く丈夫な頭骨、太い小臼歯、深い下顎で肉と骨を処理 | 細い頭骨と小さな頬歯。長く幅広い舌でシロアリをなめる |
| 前半身 | 頭、首、肩が特に頑丈。獲物を引き、骨へ大きな力をかける | 同じ肩高の体型だが軽量で、採食は舌が主役 |
| たてがみ | シマ・カッショクは特に長く、立てて体を大きく見せる | 背中の毛を大きく逆立て、捕食者を威嚇する |
| におい | 縄張り、個体、群れの情報を「ペースト」で残す | 草の茎などへ頻繁ににおいを塗り、縄張りを知らせる |
種ごとの暮らし
ブチハイエナ:群れで狩る、サバンナの有力捕食者
「ライオンの食べ残しだけを盗む」という印象とは違い、ブチハイエナは自分で獲物を捕らえる優れたハンターです。地域と季節によって割合は変わりますが、ヌー、シマウマ、レイヨウ類などを単独または複数で追います。逆に、ライオンがハイエナの獲物を奪うこともあります。
クランには数頭から数十頭以上が属しますが、いつも全員が一緒ではありません。休む、移動する、狩るときは小さな組に分かれ、獲物や敵が現れると集まる「離合集散型」です。メスは生まれた群れに残り、母親に近い社会順位と関係を受け継ぎます。成長したオスの多くは別の群れへ移り、移住先では低い順位から始めます。
メスの外部生殖器は細長い陰核と癒合した陰唇からなり、外見がオスに似ます。雌雄同体ではなく、オスとメスは別です。交尾と出産もこの構造を通して行われます。珍しさだけを面白がるのではなく、出産時の負担も大きい体の特徴として理解することが大切です。
シマハイエナ:3大陸にまたがる夜の清掃者
シマハイエナはアフリカ、ヨーロッパ南東部に近い西アジア、南アジアまで分布する唯一の現生ハイエナです。乾燥した岩山、低木地、半砂漠、農地周辺を夜に歩き、においで死骸を探します。肉がなくなった骨や皮も利用し、昆虫、卵、果実、メロン類も食べます。
採食は単独が多い一方、完全な「一匹暮らし」とは限りません。同じ巣穴を家族で使い、成長した子が下の子へ食物を運ぶ地域もあります。驚くと長いたてがみを立て、横向きになって輪郭を大きく見せます。
カッショクハイエナ:海岸砂漠を何十kmも歩く
暗いぼさぼさの毛をもつカッショクハイエナは、南部アフリカの乾燥地に特化しました。群れの縄張りは広く、成獣は一晩に数十km歩いて食物を探すことがあります。ナミビア沿岸では、海鳥、魚、オットセイ類の死骸や子を利用します。内陸では大型肉食獣の食べ残し、自然死した草食獣、小動物、果実などを食べます。
クランは共同の巣穴を使い、母親以外のメスが授乳したり、複数の成獣が子へ食物を持ち帰ったりします。ただし大人の採食は単独が多く、ブチハイエナの大群とは違う社会です。
アードウルフ2種:骨を砕かず、シロアリをなめ取る
アードウルフは、食肉目なのに肉の塊を主食にしません。主にTrinervitermesなどのシロアリが夜に地表へ出るのを待ち、長く粘る舌で次々になめ取ります。塚を壊し尽くさないので、同じコロニーを後日また利用できます。水分の多くも餌から得ます。
シロアリの活動時刻は気温と季節で変わります。寒い季節には夕方から活動したり、別のシロアリを利用したりします。日中はツチブタやトビウサギなどが掘った巣穴を使うことが多く、縄張り内で複数の巣穴を移り替えます。

生息地と分布:水場だけでは決まらない
ブチハイエナはサハラ以南の草原・疎林に広く、シマハイエナはより乾燥した岩地と人里近くにも分布します。カッショクハイエナは南部アフリカの乾燥地と海岸、アードウルフは地表性シロアリが豊富な草原に強く結び付きます。
同じ地域に複数種がいても、食物、時間、場所をずらせます。ブチハイエナが大型獲物を狩る一方、カッショクハイエナは広く単独で腐肉を探し、アードウルフはシロアリだけを追います。「同じハイエナ」という名前より、何を・いつ・どう食べるかが生態を決めます。

「笑い声」は笑っているの?
有名な「笑い」は、主にブチハイエナのギグルと呼ばれる高い連続音です。人間のように冗談を楽しんで笑う証拠ではありません。餌をめぐる緊張、追われたとき、恐れ、興奮、服従などの状況で出ます。音の高さや変化には年齢、個体、社会順位に関する手掛かりも含まれます。
遠くへ届く「ウォップ」は別の声です。仲間を集める、位置を知らせる、侵入者へ応答するなどの働きがあり、2022年の機械学習研究では個体ごとの声の特徴が確かめられました。一つの声を人間の感情語だけで訳さず、場面と相手を合わせて考える必要があります。
人と生態系に果たす役割
- 捕食者:ブチハイエナは草食獣の個体数と行動へ影響する。
- 死骸の利用者:シマ・カッショク・ブチは、ほかの動物が残す皮、腱、骨まで食物網へ戻す。
- 昆虫食:アードウルフは草原で大量のシロアリを食べるが、塚を壊して根絶やしにはしない。
- 栄養の運び手:死骸から巣穴、共同トイレ、縄張りへ栄養を運び、果実の種を散らすこともある。
保全:誤解と報復が大きな脅威
種ごとの状況は違いますが、共通する脅威は、生息地の分断、野生の獲物の減少、道路、わな、毒餌、家畜被害への報復です。実際には死んだ家畜を食べていただけでも「殺した」と判断されることがあります。毒を入れた死骸は、狙った動物だけでなくハイエナ、ハゲワシ、ジャッカルなど多くの腐肉食動物を殺します。
シマハイエナとカッショクハイエナはIUCNでNear Threatenedです。ブチハイエナはLeast Concernでも個体数傾向は減少とされ、地域絶滅はすでに起きています。新しく分けられた東部アードウルフはNot Evaluatedであり、分布と個体数を新しい種の単位で調べ直す必要があります。
まとめ
- 最新のMDD分類では、現生ハイエナ科は骨を砕く3種とアードウルフ2種の計5種。
- ブチは有力なハンター、シマとカッショクは腐肉を広く利用し、アードウルフはシロアリ専門。
- 同じ科でも体重、耳、毛、歯、舌、社会、分布は大きく違う。
- 「笑い」は人間の笑いと同じ意味ではなく、緊張や興奮、服従などを伝える声。
- 分類上の未評価を安全と考えず、毒餌、報復、道路、生息地分断を減らすことが重要。
主な参考論文・公的データベース
- Mammal Diversity Database: Hyaenidae(現生5種の分類)
- MDD: Crocuta crocuta(分布、LC)
- MDD: Hyaena hyaena(分布、NT)
- MDD: Parahyaena brunnea(分布、NT)
- MDD: Proteles cristatus(南部種)
- MDD: Proteles septentrionalis(東部種、NE)
- Allio et al. (2021), High-quality carnivoran genomes from roadkill samples enable comparative species delineation in aardwolf and bat-eared fox
- Smith & Holekamp (2019), Behavioral adaptations to scavenging in spotted hyenas
- Mathevon et al. (2010), What the hyena’s laugh tells
注:分類と保全評価は2026年7月25日確認時点。画像は種と生息環境を学ぶための生成イメージで、分布境界や個体の産地判定には使えません。野生のハイエナへ近づいたり、餌を与えたりしないでください。

