ハイエナの研究は、骨や死骸だけを調べるものではありません。研究者は何十年も個体を見分け、遊び声を録音し、共同トイレへカメラを置き、DNAで親子を確かめています。2023〜2026年の論文から、「笑う動物」という一言では見えない6つの発見を紹介します。
30秒で分かる要点
- 野生ブチハイエナは、遊びを誤解されないよう、口を開けた表情と13タイプの声を場面で使い分ける。
- 社会順位を母から受け継ぐため、高順位の母系が世代を重ねるほど多くの子孫を残す。
- ライオンを集団で追い払う危険な協力には、相手の性別や数だけでなく、親しい仲間の存在が関わる。
- カッショクハイエナは、同じ共同トイレを使うブチハイエナの直後を乾季に避ける可能性がある。
- アードウルフとツチブタは同じ場所・時間をよく使い、ツチブタの掘り跡がシロアリ採食を助ける可能性がある。
- インドのシマハイエナは、調査地で年23.13トンの家畜死骸を消費すると推定された。
ここでいう「最近」は2023〜2026年に査読誌へ掲載された研究です。研究結果は調査地、季節、個体群、分析法の範囲で読み、ハイエナ科すべてへそのまま広げないようにします。
1.遊びでは顔と13タイプの声を使う

どう調べた?
2026年の研究は、タンザニアのンゴロンゴロと南アフリカのマカラリで、野生ブチハイエナ139頭が参加した238回の遊びを映像と音で分析しました。研究者は、かみつく・追うなどの遊び行動と、力を抜いて口を開ける「リラックス・オープン・マウス(ROM)」、声の出し方を一緒に記録しました。
何が分かった?
2頭だけの遊びでは、互いの顔が見えやすく、ROMが多く使われました。3頭以上では目を合わせ続けにくく、ROMが少ない場面ほど声が増えました。音響特性をまとめる解析では、遊び中の声が13タイプに分けられました。
顔は「これは本気の攻撃ではない」と伝える定型的な信号、声は視界が悪い場面を補う柔軟な手掛かりと考えられます。ハイエナは一種類の「笑い声」だけで遊ぶのではなく、見る相手と聞く相手に合わせて通信手段を変えていたのです。
ここは言い切れない
13タイプは音響データを分類した結果で、人間の「13個の言葉」と同じではありません。声ごとの意味を確定するには、録音を再生して相手の反応を調べる実験などが必要です。
2.母から受け継ぐ「特権」が世代を超えて増幅する

どう調べた?
2026年のScience Advances論文は、ンゴロンゴロのブチハイエナを29年間追跡したデータを使いました。8つのクラン、8世代にわたって、血縁、社会順位、子・孫以降の子孫数を比べました。ブチハイエナではメスが生まれたクランに残り、子は母に近い順位を学び、受け継ぎます。
何が分かった?
1年ごとに見ると、繁殖成功のばらつきは多くの一夫多妻動物と同じくオスで大きく、メスで小さめでした。しかし複数世代へ視野を広げると、繁殖の不平等はメスでより強く増え、典型的な雌雄差が逆転しました。高順位メスは自分の子を多く残すだけでなく、その娘も高順位になりやすく、多くの孫・ひ孫へつながったからです。
数世代後には、調べたクランの多くの個体が、かつて最上位だったメスの系統へたどれる状態になりました。社会的な有利さが遺伝子そのものとは別の経路で母から娘へ伝わり、集団の家系構成まで変えた例です。
ここは言い切れない
「最上位の家系だけが必ず残る」という決まりではありません。獲物、病気、移住、偶然も繁殖を左右します。この研究は非常に長期ですが、ンゴロンゴロの特定集団を対象にした結果です。
3.ライオンへ向かう勇気は、仲間との関係で変わる
どう調べた?
2023年の研究は、ケニアのマサイマラで35年間に記録された、ブチハイエナがライオンを集団で囲み追い払う「モビング」を分析しました。現場にいたハイエナとライオンの数・性別・年齢、食物の有無、個体間の社会関係、挨拶行動を比べました。
何が分かった?
参加しやすかったのは、ハイエナが多く、ライオンにオスがいないときでした。成獣オスのライオンは特に危険なので、得られる餌よりも「どれだけ危険か」が判断へ強く効いていました。さらに、よく挨拶を交わすなど社会的に結び付いた仲間が参加すると、個体も加わりやすくなりました。
協力は「群れの全員が同じ勇気をもつ」から起こるのではありません。敵の危険度と、そばにいる信頼できる仲間を見て、その場ごとに参加を決める行動でした。
ここは言い切れない
親しい仲間が勇気を直接生んだのか、よく一緒にいる個体が同じ場面へ集まりやすかったのかは、観察データだけでは完全に分けられません。研究は複数の要因を統計的に調整していますが、実験ではありません。
4.共同トイレは同じでも、直後を避ける

どう調べた?
2025年の研究は、ブチハイエナとカッショクハイエナが高密度で共存するボツワナのセントラル・トゥリで、両種が使う共同トイレにカメラを置き、毎月ふんの数も数えました。雨季と乾季の訪問時刻、排便、前の訪問から次の訪問までの間隔を調べました。
何が分かった?
1日全体で見ると、2種の利用時刻は大きく重なりました。一方、乾季の細かな時間間隔では、ブチハイエナが来た後にカッショクハイエナが来るまでの間隔が、逆の順番や同種どうしより長くなりました。小さいカッショクハイエナが、より優勢なブチハイエナとの遭遇を避けた可能性があります。
共同トイレは縄張り、繁殖状態、個体の情報をにおいで残す「掲示板」です。しかし競争相手が同じ場所を使うと、情報を残したくても安全な時刻まで待つ必要があるかもしれません。
ここは言い切れない
時刻のずれだけで、カッショクハイエナがブチハイエナを認識して意図的に待ったと証明したわけではありません。季節の活動時間や、においが残る長さなど別の説明も検討が必要です。
5.アードウルフはツチブタの「工事」を利用する?
どう調べた?
2023年の研究は、タンザニアのセレンゲティ国立公園に106台のカメラを置き、2016〜2018年のアードウルフとツチブタの記録を分析しました。どの場所に現れるかを調べる占有モデルと、1日の活動時刻の重なりを使いました。
何が分かった?
2種は同じ場所に現れる傾向があり、活動時刻の重なりも高く、主に夜に動きました。研究者は、ツチブタがシロアリ塚を掘った後、アードウルフが露出して捕りやすくなったシロアリを利用する「片利共生」の可能性を示しました。アードウルフは利益を受け、ツチブタには大きな損得がない関係です。
ここは言い切れない
カメラは2種が同じ場所・時間を使うことを示しましたが、アードウルフが掘り跡でシロアリを食べる瞬間を繰り返し実験したわけではありません。同じ環境を好むため一緒に写った可能性もあり、片利共生は有力な仮説です。
6.シマハイエナは人里で死骸を大量に片づける
どう調べた?
2023年の研究は、インド・ラジャスタン州の人間活動が多い地域で、カメラによる撮影、ふんの食物分析、家畜死骸の発生量を組み合わせました。ハイエナが消費する量を推定し、同じ死骸を薪で焼却する場合の費用にも換算しました。
何が分かった?
重点調査地では、年間に出る家畜死骸525.68トンのうち、シマハイエナが23.13トン、約4.4%を消費すると推定されました。焼却処理に置き換えた年間の価値は、当時の米ドル換算で約4万9665ドルでした。
死骸を片づけることは、単に「掃除」ではありません。腐敗物を減らし、栄養を食物網へ戻す生態系サービスです。嫌われやすい大型肉食獣が、人の暮らす地域で目に見えにくい役割を担っていました。
ここは言い切れない
23.13トンと金額はラジャスタンの一調査地、当時の死骸量・物価・計算条件による推定です。インド全体や別の国へそのまま掛け算はできません。また、家畜死骸へ依存することは道路事故や人との衝突を増やす面もあります。
6研究を横並びで比較
| 発見 | 対象種 | 調査地・期間 | 主な方法 | 意外な点 |
|---|---|---|---|---|
| 遊びの顔と13タイプの声 | ブチ | タンザニア・南アフリカ | 238回の遊びの映像・音響解析 | 見えにくい多頭遊びでは声が増える |
| 母系の特権 | ブチ | ンゴロンゴロ、29年・8世代 | 血縁・順位・繁殖の長期追跡 | 世代を重ねるとメス側の繁殖格差が逆転して大きくなる |
| 対ライオン協力 | ブチ | マサイマラ、35年 | モビングと社会関係の観察 | 親しい仲間の参加が自分の参加と結び付く |
| 共同トイレの時間差 | ブチ・カッショク | ボツワナ、雨季・乾季 | カメラとふんの月例調査 | 乾季にカッショクがブチの直後を避ける可能性 |
| ツチブタとの重なり | アードウルフ | セレンゲティ、2016〜2018年 | 106地点のカメラ・占有モデル | 掘り跡で餌を得る片利共生の可能性 |
| 死骸処理サービス | シマ | インド・ラジャスタン | カメラ・ふん・死骸量の推定 | 調査地で年23.13トンを消費と推定 |
まとめ
- 遊びでは顔と声を、相手の数と見えやすさに合わせて使う。
- 母から受け継ぐ順位は、数世代後の家系構成まで変え得る。
- 危険な協力では、敵の危険度と親しい仲間の存在が判断へ関わる。
- 共同トイレは情報交換の場所である一方、優勢種を避ける調整も必要。
- アードウルフとツチブタの関係は有力な片利共生仮説だが、直接検証が必要。
- シマハイエナの死骸処理は地域社会へ価値をもつが、数字は調査地限定。
主な参考論文
- Francesconi et al. (2026), Eyes, ears, and play in the wild: flexible use of sensory channels in spotted hyena communication
- Mosna et al. (2026), The legacy of privilege: Social inheritance reverses sex differences in reproductive inequality in the spotted hyena
- Montgomery et al. (2023), Determinants of hyena participation in risky collective action
- de Zeeuw et al. (2025), Temporal overlap in use of shared latrines by brown hyena and spotted hyena
- van den Bosch et al. (2023), Spatial and temporal niche overlap of aardwolves and aardvarks in Serengeti National Park, Tanzania
- Panda et al. (2023), Ecosystem services provided by striped hyenas in the human-dominated landscape of Rajasthan, India
資料確認日:2026年7月25日。画像は研究内容を学ぶための生成イメージで、実際の研究映像・個体・測定図ではありません。

