「シカ」と聞いて思い浮かべる姿は、住んでいる地域によって大きく違います。日本ではニホンジカ、北米ではオジロジカやワピチ、北極圏ではトナカイ、寒い森と湿地では巨大なヘラジカが代表格です。小さなプーズーから体重数百キログラムのヘラジカまで、シカ科は驚くほど多様です。
30秒で分かる要点
- シカ科は分類の更新が続いており、2026年版のデータベースでは現生・近世絶滅を含め約60種が扱われています。
- 自然分布はユーラシア、アフリカ北西部、南北アメリカ。オーストラリアやニュージーランドなどには人が持ち込みました。
- 全種が植物食の反芻動物ですが、草を多く食べる種、葉や枝を選ぶ種、冬に地衣類を使うトナカイなど、献立は同じではありません。
- 枝角は骨でできており、多くの種では雄だけが毎年生え替えます。トナカイでは通常、雌にも枝角があります。
- ジャコウジカはシカ科ではなくジャコウジカ科、プロングホーンも別の科です。
シカは何種類いる?
American Society of MammalogistsのMammal Diversity Database(MDD)v2.4が掲載するシカ科の種レベルの項目を数えると61です。この中には20世紀に絶滅したションブルクジカも含まれます。一方で、南米のマザマ類の分割や属の移動、新種の記載が続いているため、一般向けには「約60種」と表すのが適切です。
大きな系統は、旧世界を中心に広がったシカ亜科(Cervinae)と、ヘラジカ、ノロジカ、トナカイ、アメリカ大陸のシカなどを含むオジロジカ亜科(Capreolinae)の2つです。名前に「シカ」が付いていても、すべてが同じ属に入るわけではありません。

| 代表種 | 見分ける特徴 | 主な自然分布 | 食べ物の傾向 |
|---|---|---|---|
| ニホンジカ Cervus nippon |
夏毛の白い斑点、白い尻斑。雄は通常4尖ほどの枝角 | 日本列島、中国東部、朝鮮半島、ロシア極東など東アジア | 草、ササ、葉、木の実、樹皮。地域と積雪で大きく変化 |
| アカシカ Cervus elaphus |
赤褐色の夏毛。雄は大きく枝分かれした角と秋の鳴き声 | ヨーロッパ、西・中央アジア、北アフリカの一部 | 草、広葉草本、低木の葉、若枝、木の実 |
| ワピチ Cervus canadensis |
大型で黄白色の尻斑。雄は長大な枝角と高い声 | 北米と東アジア | 草を多く食べ、冬は低木、枝、樹皮も利用 |
| ダマジカ Dama dama |
雄の掌状に広がる角。斑点の残る毛色が多い | 地中海東部から西アジアが自然分布の中心。各地へ移入 | 草、広葉草本、葉、芽、ドングリなど |
| ノロジカ Capreolus capreolus |
小型で尾がほとんど見えず、白い尻斑が目立つ | ヨーロッパから西アジア | 栄養価の高い芽、若葉、広葉草本を選んで食べる |
| オジロジカ Odocoileus virginianus |
逃げるとき尾を上げ、白い裏側を旗のように見せる | カナダ南部から南米北部までのアメリカ大陸 | 葉、若枝、草、果実、ドングリ、キノコなど |
| トナカイ Rangifer tarandus |
雌雄とも枝角をもつことが多い。幅広い蹄と密な毛 | 北極圏周辺のツンドラとタイガ | 夏はスゲ、草本、ヤナギ、キノコ。冬は地衣類が重要 |
| ヘラジカ Alces alces |
現生シカ科最大。長い脚、張り出す鼻、雄の掌状角 | 北米・北欧・ロシアなど北半球の寒帯林 | ヤナギなどの葉と枝、水草。草原で草を主食にはしにくい |
生息域はツンドラから熱帯雨林まで

シカ科の自然分布は、北極圏のツンドラ、針葉樹林、温帯林、草原、湿地、乾燥した低木地、東南アジアと南米の熱帯林にまで及びます。南極大陸にはおらず、オーストラリアやニュージーランドのシカは人為的に導入された集団です。
開けた環境:ワピチ、アカシカ、ダマジカ
森林と草地の境目は、隠れ場所と食物を両方得られる好適な環境です。ワピチやアカシカは草地で採食し、危険を避けるため森林へ入ります。開けた場所を使う種では群れが大きくなりやすいものの、群れの大きさは季節、性別、繁殖期によって変わります。
寒帯と湿地:トナカイ、ヘラジカ
トナカイは季節によって長距離を移動する集団があり、広がる蹄は雪上を歩くときにも、湿った地面を進むときにも役立ちます。ヘラジカは長い脚で深雪や湿地を進み、水中に頭を入れて水草を食べることもあります。どちらも寒冷地の代表ですが、生活様式は同じではありません。
密な森:キョン、プーズー、マザマ類
小型の森林性シカは、短い脚と小さな角で藪の中を移動します。南米のプーズー類はシカ科最小クラスで、東南アジアのキョン類は犬のほえる声に似た鳴き声から英語で「barking deer」と呼ばれます。キバノロは枝角をもたず、雄の上顎犬歯が長く伸びます。
食べ物は種類によって違う?

答えは「全種が植物食だが、選ぶ部位と季節配分が違う」です。シカ科は反芻動物で、一度飲み込んだ食物を口へ戻してかみ直し、第一胃などに住む微生物の発酵を利用します。しかし、草の繊維を大量に処理するワピチと、栄養価の高い若葉を少量ずつ選ぶノロジカでは、採食戦略が異なります。
| 採食タイプ | 代表例 | よく食べるもの | 環境への対応 |
|---|---|---|---|
| 草を多く使う | ワピチ、アカシカの一部 | イネ科草本、広葉草本 | 草の乏しい冬は葉、枝、樹皮へ切り替える |
| 葉・芽を選ぶ | ノロジカ、ヘラジカ、オジロジカ | 若葉、芽、低木の枝、果実 | 食物の質と分布に合わせ、こまめに場所を変える |
| 混合型 | ニホンジカ、ダマジカ | 草、ササ、葉、木の実、樹皮 | 季節と地域に応じて草食と葉食の比率を変える |
| 北極圏型 | トナカイ | 夏の草本・ヤナギ・キノコ、冬の地衣類 | 雪を掘って地衣類を探すが、地衣類だけを食べるわけではない |
同じ種でもメニューは固定されません。ニホンジカは雪が深い年に樹皮へ頼りやすく、オジロジカは秋にドングリや果実、積雪後には若木の枝を多く利用します。「シカの好物は草」と一言でまとめるより、その場所で、その季節に得られる植物を見ることが大切です。
角ではなく「枝角」—毎年つくり直す骨
シカ科を象徴する枝角(antler)は、ウシ科の角(horn)と別物です。成長中は袋角と呼ばれる血管の多い皮膚に覆われ、完成すると皮膚がはがれ、繁殖期の後に根元から落ちます。多くの種では雄だけに生えますが、トナカイでは雌にも生えるのが普通です。
例外もあります。キバノロは雌雄とも枝角がなく、雄は長い犬歯を争いに使います。キョン類では小さな角に加えて犬歯も発達します。この違いは、繁殖行動、体の大きさ、森林の密度などが組み合わさって進化した結果です。
「シカの仲間」と間違えやすい動物
- ジャコウジカ:ジャコウジカ科。枝角がなく、雄に長い犬歯があります。
- マメジカ:マメジカ科。非常に小型の反芻動物ですが、シカ科ではありません。
- プロングホーン:プロングホーン科。枝分かれした角鞘を毎年落とす独特の角をもちます。
- カモシカ:名前にシカが付きますがウシ科で、枝角ではなく生涯伸びる角をもちます。
まとめ
- シカ科は分類更新中で、2026年時点では約60種と考えると分かりやすい。
- 代表8種だけでも、体格、枝角、尻斑、生息環境に大きな違いがある。
- 全種が反芻する植物食動物だが、草、若葉、枝、水草、地衣類などの配分は異なる。
- 枝角は毎年生え替わる骨。多くは雄だけだが、トナカイは雌にも生える。
- ジャコウジカ、マメジカ、プロングホーン、カモシカはシカ科ではない。
主な参考資料
- ASM Mammal Diversity Database v2.4: Cervidae(2026年の分類)
- Animal Diversity Web: Cervidae(生息環境、食性、繁殖)
- U.S. National Park Service: When Deer and Elk Compete(ブラウザーとグレイザーの違い)
- U.S. National Park Service: White-Tailed Deer(食性と特徴)
- U.S. National Park Service: Hoofed Mammals(ワピチとヘラジカ)
注:分類と分布は2026年7月確認時点。図は代表的特徴を比較する生成イメージで、個体差、亜種差、季節毛をすべて示すものではありません。

