「サルは何種類いるの?」と聞かれると、実は答え方が少し難しくなります。日本語の日常会話では、キツネザルやメガネザル、尾のあるサル、ときにはゴリラやチンパンジーまでまとめて「サル」と呼びます。しかし生物学では、これらはすべて霊長目(Primates)という大きなグループに入り、その中でいくつもの系統へ分かれています。
分類はDNA解析や新種記載によって更新され続けているため、種数を一つの数字に固定するより、まず「どのグループが、どこで、どのように暮らしているか」をつかむ方が分かりやすいでしょう。この記事では、現生霊長類を曲鼻猿類、メガネザル類、新世界ザル、旧世界ザル、類人猿の5グループに整理し、特徴・生息域・食べ物を横並びで紹介します。
先に結論
霊長類には500種以上が認められていますが、分類は変動中です。見分ける手掛かりは「鼻」「目」「歯」「尾」「消化器」「生息地域」。なお、尾で枝につかまれるのは新世界ザルの一部だけで、すべてのサルにできるわけではありません。
サルの仲間を5つの主要グループで見る

| 主要グループ | 代表例 | 主な生息域 | 見分ける手掛かり | 主な食べ物 |
|---|---|---|---|---|
| 曲鼻猿類 | キツネザル、ロリス、ガラゴ | マダガスカル、アフリカ、南・東南アジア | 湿った鼻、嗅覚をよく使う、多くは歯ぐしをもつ | 果実、葉、花、樹液、昆虫 |
| メガネザル類 | フィリピンメガネザルなど | 東南アジアの島々 | 非常に大きな目、長い足根骨、夜行性 | 昆虫、トカゲ、小鳥など動物質 |
| 新世界ザル | マーモセット、オマキザル、ホエザル、クモザル | メキシコ南部〜中南米 | 左右に開く鼻孔、ほぼ樹上性、一部は把握性の尾 | 果実、葉、昆虫、樹液、種子 |
| 旧世界ザル | ニホンザル、ヒヒ、マンドリル、コロブス | アフリカ、アジア | 下向きで近接した鼻孔、尾は物をつかまない | 果実、葉、草、種子、昆虫、小動物 |
| 類人猿 | テナガザル、オランウータン、ゴリラ、チンパンジー | アフリカ、南・東南アジア | 外から見える尾がなく、肩関節がよく動く | 果実、葉、若芽、昆虫など |
1.曲鼻猿類:鼻とにおいの世界を生きる
曲鼻猿類には、マダガスカル固有のキツネザル類と、アフリカ・アジアのロリス類、アフリカのガラゴ類が含まれます。多くの種は鼻先が湿っており、視覚だけでなく嗅覚による個体識別や縄張りの情報交換をよく使います。
下の前歯と犬歯が櫛のように並ぶ「歯ぐし」も代表的な特徴です。毛づくろいや樹液の採取に使われます。ただし、曲鼻猿類すべてが同じ姿・同じ生活をするわけではありません。昼に群れで活動するワオキツネザルがいる一方、ロリスやネズミキツネザルの多くは夜行性です。
食べ物
果実や葉を中心に食べる種、昆虫を多く捕らえる種、竹を専門的に利用する種、樹液をなめる種までさまざまです。体の小さな種ほど、エネルギー量の多い昆虫や樹液の比率が高くなる傾向があります。
2.メガネザル類:目は大きいが、眼球を動かしにくい
メガネザルはフィリピン、ボルネオ、スマトラ、スラウェシなど東南アジアの島々に暮らす夜行性の霊長類です。片方の眼球が脳に匹敵するほど大きいと表現されることもあり、暗い森で光を集めることに適しています。その代わり、眼球そのものは眼窩内で大きく動かせず、首を回して周囲を見ます。
名前の由来にもなった長い足根部をばねのように使い、幹から幹へ跳び移ります。霊長類としては珍しく、食事の中心は動物質です。昆虫だけでなく、小型の爬虫類や脊椎動物を捕らえることもあります。
3.新世界ザル:南米の森で独自に多様化
新世界ザルは中南米に分布し、鼻孔が左右へ離れて開くことから広鼻小目とも呼ばれます。小型のピグミーマーモセットから、長い手足をもつクモザル、低く響く声を出すホエザルまで、姿も生活も大きく異なります。
「南米のサルは尾でぶら下がる」という印象がありますが、尾の下面に摩擦に強い皮膚をもち、枝をしっかり握れるのはクモザル、ウーリーモンキー、ホエザル、オマキザルの一部などです。マーモセットやリスザルの尾はバランスを取る役目が中心です。
食べ物
マーモセットは特殊な下の歯で樹皮に穴を開け、樹液や樹脂を利用します。ホエザルは発酵に向いた消化管で葉を処理し、オマキザルは果実、種子、昆虫、小動物などを幅広く食べます。同じ森でも、食べる場所と食物をずらすことで共存しています。
4.旧世界ザル:アフリカとアジアで広がった大集団
旧世界ザルはニホンザル、マカク、ヒヒ、マンドリル、コロブス、ラングールなどの仲間です。鼻孔は近接して下向きに開きます。尾がある種でも枝を握ることはできず、ニホンザルのように短い尾の種や、バーバリーマカクのように外見上ほとんど尾がない種もいます。
食べ物の違いは、体の内部にも表れます。マカクやヒヒを含むオナガザル亜科の多くは頬袋へ食物を一時的に入れ、比較的幅広い食物を利用します。一方、コロブスやラングールを含むコロブス亜科は、複雑な胃と腸内微生物の発酵で葉を利用します。
日本に野生で暮らすのはニホンザル
ニホンザルはヒト以外の霊長類として最も北まで自然分布する種の一つです。常緑広葉樹林から雪の多い落葉樹林まで暮らし、季節に応じて果実、葉、樹皮、種子、昆虫などを切り替えます。温泉へ入る習慣はすべてのニホンザルに共通する本能ではなく、長野県・地獄谷の一群で社会的に広がった地域文化です。
5.類人猿:尾をなくした別の枝
類人猿にはテナガザル科とヒト科が含まれ、外から見える尾がありません。肩甲骨が背中側にあり、肩を幅広く動かせるため、テナガザルの腕渡りやオランウータンの慎重な樹上移動に向きます。
類人猿は「サルが進歩して変身したもの」ではありません。旧世界ザルと類人猿は共通祖先から分かれ、それぞれ独自に進化した姉妹系統です。ゴリラについては、種類・進化・研究を後の専用記事で詳しく扱います。
生息域を横並びで比較

| 地域 | 特徴的なグループ | 代表的な環境 |
|---|---|---|
| マダガスカル | キツネザル類 | 熱帯雨林、乾燥林、とげのある低木林、高地林 |
| アフリカ | ロリス・ガラゴ、旧世界ザル、類人猿 | 熱帯雨林、サバンナ、山地、高原、半乾燥地 |
| アジア | ロリス、メガネザル、旧世界ザル、類人猿 | 雪国の温帯林から熱帯雨林、マングローブまで |
| 中南米 | 新世界ザル | アマゾン、雲霧林、大西洋岸森林、乾燥林 |
食べ物は「果実中心」だけではない

- 果実食:糖分と水分が多い一方、季節変化が大きいため広い範囲を移動します。
- 葉食:一年を通じて得やすいものの、繊維と植物の防御物質を処理する胃腸が必要です。
- 樹液食:マーモセット類は樹皮を削る歯と、同じ木を繰り返し訪れる行動を発達させました。
- 昆虫・動物食:メガネザルは動物食に強く依存し、オマキザルやマカクも機会があれば昆虫や小動物を利用します。
- 草食:ゲラダは霊長類では珍しく、地上で草の葉や種子を主食にします。
よくある疑問
サルはみんな木の上で暮らす?
いいえ。樹上性が祖先的な特徴ですが、ヒヒ、ゲラダ、パタスモンキーなど地上を頻繁に使う種もいます。ニホンザルやマカク類は木と地上の両方を柔軟に使います。
尾が長いほど木登りが得意?
単純には決まりません。尾はバランス、合図、脂肪の貯蔵など多様な役目をもちます。尾をもたないテナガザルは腕だけで高速に移動し、尾の短いマカクも優れた木登りをします。
人の食べ物をあげても大丈夫?
野生のサルへの餌付けは、栄養の偏り、人への依存、接触事故、感染症の双方向伝播につながります。観察地の規則を守り、食べ物や袋を見せず、距離を取ることが大切です。
保全:多様なほど、必要な対策も違う
IUCN SSC Primate Specialist Groupは、既知の種・亜種720分類群のうち464が絶滅のおそれのあるカテゴリーに入ると説明しています。森林伐採、農地化、狩猟、違法なペット取引、道路による分断が大きな要因です。ただし、対策は一律ではありません。島に少数だけ残る種と、都市近郊へ適応したマカクでは、必要な保全策が異なります。
まとめ
- 霊長類は大きく曲鼻猿類と直鼻猿類に分かれ、直鼻猿類の中にメガネザル、サル類、類人猿が含まれます。
- 新世界ザルは中南米、旧世界ザルはアフリカ・アジアを中心に分布します。
- 把握性の尾をもつのは新世界ザルの一部だけです。
- 食性は果実、葉、樹液、昆虫、草、動物質まで幅広く、歯や胃腸の違いに反映されています。
- 「サルが類人猿へ進歩した」のではなく、共通祖先から分かれた別の枝です。
主な参考文献
- IUCN SSC Primate Specialist Group
- American Society of Mammalogists, Mammal Diversity Database v2.4
- Perelman et al. (2011), A Molecular Phylogeny of Living Primates
- Estrada et al. (2017), Impending extinction crisis of the world’s primates
※分類、和名、保全評価は研究と評価更新により変わることがあります。画像は特徴を比較しやすく再構成した生成イメージで、個体間の正確な縮尺を保証する標本写真ではありません。

