名前で呼ぶ?最近の研究で分かったサルの意外な習性8選

呼び合うマーモセット、石で貝を開くマカク、温泉のニホンザル、テングザル、ヒヒを描いたアイキャッチ サル
最近の研究で分かったサルの音声、道具、文化、社会を紹介するアイキャッチ

サルは仲間を「名前」のような声で呼び、必要に迫られると石器文化を始め、予想外にご褒美が増えても体をかく――。近年の研究は、野生観察、GPS、音響解析、認知実験を組み合わせ、これまで見落としていた行動を明らかにしています。

ただし、面白い結果ほど一般化には注意が必要です。飼育下の数頭で得た結果、特定の島の一群だけが示す文化、複数種を比べた相関は、問いの種類が違います。この記事では何が分かったかと同時に、どこまで言えるかもセットで紹介します。

今回の8研究
マーモセットの呼び名/ロックダウン中に始まった石器使用/幸運でも増える体かき/リズムへ合わせる能力/テングザルの鼻/温泉のストレス軽減/ヒヒの集団意思決定/ホエザルの声と繁殖のトレードオフ

研究1.マーモセットは相手ごとの「呼び名」を使う

マーモセットの受け手別音声と家族内の呼び方、マカクのリズム課題と体かきを示した図
相手を呼び分ける声、視覚リズム同期、予想外の出来事に対する体かき

2024年にScienceへ発表された研究は、コモンマーモセットの「フィーコール」と呼ばれる長距離音声を解析しました。ペアの自然な音声対話と、コンピューターから音声を再生する実験を組み合わせると、発声には誰に向けた声かを区別する情報が含まれ、受け手は自分へ向けられた音声へより正確に応答しました。

さらに、同じ家族集団の個体は、同じ相手へ似た音響パターンを使いました。血縁のない成体間にも類似が見られたため、家族内で呼び方を学ぶ可能性があります。

人間の名前と同じ?

「名前」と呼ぶと分かりやすい一方、人間の単語と同じ構造だと証明されたわけではありません。研究が示したのは、受け手を声でラベル付けし、相手が自分宛てかを聞き分ける能力です。密な森で姿が見えない家族を呼び分ける社会的課題が、複雑な音声学習を促した可能性があります。

研究2.観光客が消えた島で石器使用が始まった

タイ湾のコペッド島では、研究者が約10年間観察しても、カニクイザルによる常習的な石器使用を確認していませんでした。ところがCOVID-19流行による観光制限中の2022年、石を打ちつけて岩ガキを開く行動が初めて観察されました。2023年3月には、成体・亜成体17頭がこの行動を行い、その多くは雄でした。

観光客から大量に得ていた食物が途絶え、自然の食物を得る必要が高まったことが新行動を促した、と著者らは提案しています。道具操作は、既知の前段階である「石投げ」に似ていました。

注意点

ロックダウンが石器使用を直接「発明させた」と実験で証明したわけではありません。観察される前から少数個体が行っていた可能性も残ります。それでも、環境変化と文化的イノベーションを長期観察で結びつけた貴重な例です。

研究3.サルは嫌なときだけでなく「幸運」でも体をかく

体かきは不安や葛藤の指標として使われることがあります。ところが2025年の研究では、タッチスクリーン課題を行うニホンザル4頭に、まれに通常の8倍の報酬を与えると、その後の体かきが対照条件より増えました。見たことのない形や色のボタンを突然表示し、報酬量を変えない別実験でも体かきが増えました。

結果は、体かきが「嫌な感情」だけでなく、予想外の出来事による驚きや覚醒と関係する可能性を示します。自分で起こす予測可能な皮膚感覚が、不確実性へ対処する行動になったという仮説も提案されました。

注意点

対象は飼育下の成体4頭です。野生で同じ仕組みが働くか、体かきが実際に内部状態を落ち着かせるかは今後の検証が必要です。

研究4.訓練されたマカクはテンポへ合わせ、途中で戦略を変える

2025年のJournal of Neurophysiology研究では、マカクに視覚的なメトロノームへ合わせてタップする課題を訓練しました。サルは幅広いテンポへ予測的に同期し、はじめは過去に学んだ平均的な間隔へ寄せ、得意なテンポでは直前のずれを修正する戦略へ切り替えました。

人間の音楽やダンスをそのまま再現したわけではありませんが、霊長類の脳に、規則的な時間間隔を予測し、結果に応じて運動を調整する基盤があることを示します。

注意点

長い訓練を受けた実験課題なので、「野生のサルが音楽に合わせて踊る」とは結論できません。自発的なリズム行動と、訓練で引き出せる時間処理能力は分けて考えます。

研究5.テングザルの鼻は「見えるラッパ」

テングザルの鼻声、ニホンザルの温泉、ヒヒの共有移動、ホエザルの咆哮を4面で示した図
鼻と声、温泉文化、共有意思決定、繁殖投資の研究

2024年のScientific Reports論文は、テングザルと比較対象3種の頭蓋3Dモデルを計測しました。テングザルの雄は雌より鼻孔の骨格開口部が29%、鼻腔が26%大きく、体サイズを補正しても差が残りました。鼻腔の形は、雄が大きく低い共鳴音を出すことに向いていました。

つまり大きな鼻は、近距離では雄の成熟や質を見せる視覚信号、視界の悪い森では低く響く声を作る音響装置として、二重に働く可能性があります。

注意点

主に博物館標本の形態比較から機能を推定した研究です。雌が鼻の大きさだけで相手を選ぶことを直接実験したわけではなく、雄同士の競争も影響します。

研究6.温泉はニホンザルの寒冷ストレスを下げる

長野県・地獄谷のニホンザルは温泉に入ることで知られます。2018年の研究は雌12頭を追跡し、冬ほど、特に寒い週ほど入浴頻度が高いことを確認しました。糞中グルココルチコイド代謝物の解析では、入浴が体温調節に伴うストレスを下げることが示唆されました。

高順位の雌は温泉へ長く入れる一方、順位をめぐる攻撃的交渉も多いという費用と利益の両方がありました。温泉利用は寒冷地での行動的柔軟性の例です。

すべてのニホンザルが温泉好きではない

温泉入浴は種全体の本能ではなく、特定集団で母から子などへ社会的に伝わった地域文化です。観光客が同じ距離で接近してよいという意味でもありません。

研究7.ヒヒの移動は「ボスの命令」より多数の一致

2015年のScience研究は、野生のヒヒ集団の各個体へ高精度GPSを装着し、誰が移動を始め、誰が追随したかを連続的に解析しました。集団は優位個体を自動的に追うのではなく、複数の先導者が似た方向へ動くと追随しやすくなりました。

候補方向の角度差が小さいと中間方向へ折り合い、差が大きいと多数側の一方を選ぶ傾向がありました。厳しい順位社会でも、日々の移動は単純な局所ルールから共有意思決定として生じます。

民主主義という比喩の限界

投票箱や公平な権利があるわけではありません。「民主的」は、支配的な1頭が常に決定するのでなく、複数個体の動きの合計が方向を左右したという比喩です。

研究8.ホエザルは「声への投資」と「精子への投資」が両立しにくい

ホエザルの雄は巨大な舌骨と喉頭を使い、体格以上に低く響く声を出します。2015年のCurrent Biology研究が複数種を比較すると、舌骨が大きく低い声を出す種ほど精巣が小さく、一群の雄が少ない傾向がありました。逆に複数雄がいる種では舌骨が小さく、精巣が大きくなりました。

少数雄の社会では声でライバルを遠ざける「交尾前競争」、複数雄の社会では精子数を増やす「交尾後競争」への投資が強くなるという進化的トレードオフです。

個体の一生で声か精巣を選ぶわけではない

これは主に種間比較で見つかった進化的相関です。個々の雄が意思決定して臓器を大きくするのではなく、異なる社会環境で何世代も選択が積み重なった結果です。

8研究を「証拠の種類」で整理

音声録音、GPS、タッチスクリーン、頭蓋3D計測という霊長類研究手法を示した図
行動観察、音響、追跡、認知実験、博物館標本を組み合わせる研究
研究 主な方法 強く言えること 言い過ぎになること
マーモセットの呼び名 音声対話・再生実験・音響解析 相手別情報を含む声を使い、自分宛てへ反応する 人間と同じ言語や文法をもつ
島の石器使用 10年規模の野外観察 観光制限期に常習行動が初確認された 食物不足だけが原因と証明された
幸運と体かき 認知実験 予想外の報酬増加・新奇刺激後に体かきが増えた 野生の全個体でも同じ
リズム同期 訓練課題・数理モデル 視覚リズムへ予測的に同期し戦略を切り替えた 自然に音楽を演奏する
テングザルの鼻 頭蓋3D計測・音響形態学 鼻腔の性差と音響機能を支持 雌の好みだけで進化した
温泉 行動観察・糞中ホルモン 入浴と寒さ・ストレス指標の関連 全ニホンザルの本能
ヒヒの移動 全個体GPS 複数先導者の一致が追随を左右した 人間型の政治制度をもつ
ホエザルの投資 複数種の形態・社会比較 舌骨と精巣サイズの進化的相関 個体が意識的に片方を選ぶ
研究の面白さと証拠の限界を同時に読むと、動物を人間化しすぎずに本当の驚きを味わえます。

まとめ

  • マーモセットは相手別の音声ラベルを使い、自分宛ての声へ選択的に応答します。
  • カニクイザルの石器文化は、環境変化に対する行動の柔軟性を示します。
  • 体かきは不安だけでなく、驚きや不確実性への対処と関係する可能性があります。
  • 鼻、声、温泉、集団移動は、形態・生理・文化・社会が結びつく例です。
  • 「1集団」「少数個体」「種間比較」のどれで得た結果かを確認することが重要です。

主な参考文献

※研究用の画像は内容を理解しやすく再構成した生成イメージで、実験個体・装置・野外観察場面を撮影した記録写真ではありません。

タイトルとURLをコピーしました