世界最大のシロナガスクジラ、長い胸びれをもつザトウクジラ、海底を吸い込むコククジラ、深海でイカを追うマッコウクジラ。同じ「クジラ」でも、体の形、暮らす海、食べ方は大きく違います。
30秒で分かる要点
- クジラ、イルカ、ネズミイルカはすべて鯨類で、分類学上の明確な大きさの境界はありません。
- 現生鯨類は、歯の代わりにヒゲ板をもつヒゲクジラ類と、歯をもち反響定位を使うハクジラ類に大別されます。
- ヒゲクジラでも、突進して水ごと飲む、泳ぎながら濾す、海底の泥を吸うなど採食法が違います。
- ハクジラのマッコウクジラやアカボウクジラは、深海へ潜ってイカや魚を捕らえます。
- 多くの大型ヒゲクジラは、高緯度の採食海域と低緯度の繁殖海域を季節移動します。
クジラは何種類いる?
海棲哺乳類学会の2026年分類リストでは、クジラ、イルカ、ネズミイルカを合わせた鯨類は90種を超えます。日本語の「クジラ」と「イルカ」は主に見た目や慣習による呼び分けで、進化上の別グループではありません。たとえばシャチは「クジラ」と呼ばれますが、分類上はマイルカ科です。
今回は、次回のイルカ記事と重複しないよう、大型鯨類を中心に代表10種を紹介します。種数を丸暗記するより、ヒゲクジラとハクジラの違い、食べ方、生息海域を比べる方が、クジラの多様性を理解しやすくなります。

| 種類 | 見分ける特徴 | 主な分布・生息域 | 主な食べ物 |
|---|---|---|---|
| シロナガスクジラ Balaenoptera musculus |
細長い青灰色の体。地球史上最大級で約30mに達する | 世界の主要海洋。高緯度の採食域と低緯度の繁殖域を移動 | ほぼオキアミ類 |
| ナガスクジラ Balaenoptera physalus |
細身で速く泳ぐ。下顎の色が左右非対称 | 世界の温帯〜寒帯海域 | オキアミ、カイアシ類、小型群泳魚 |
| イワシクジラ Balaenoptera borealis |
背びれが高く、頭部の稜線は中央1本 | 世界の亜熱帯〜亜寒帯の沖合 | カイアシ類、オキアミ、小型魚 |
| ザトウクジラ Megaptera novaeangliae |
非常に長い胸びれ、こぶ状突起、跳躍行動 | 世界の主要海洋を長距離回遊 | オキアミ、ニシン、カタクチイワシなど |
| ミンククジラ Balaenoptera acutorostrata |
比較的小型で吻が尖る。北半球型は胸びれに白帯 | 主に北半球の沿岸〜沖合 | オキアミ、カイアシ類、小型魚 |
| セミクジラ Eubalaena japonica |
背びれがなく、頭に白い隆起。長いヒゲ板 | 北太平洋の温帯〜亜寒帯海域 | 主にカイアシ類を泳ぎながら濾す |
| ホッキョククジラ Balaena mysticetus |
巨大な弓形の頭、背びれがなく、厚い脂肪層 | 北極海と周辺の海氷域 | カイアシ類、オキアミなど |
| コククジラ Eschrichtius robustus |
まだらな灰色で背びれがなく、背中に小さな隆起列 | 北太平洋の浅い沿岸。長距離回遊 | 海底の端脚類など底生無脊椎動物 |
| マッコウクジラ Physeter macrocephalus |
巨大で四角い頭。噴気孔が左前方に1つ | 世界の深い海。成雄は高緯度にも進出 | 深海性イカ、魚類 |
| アカボウクジラ Ziphius cavirostris |
短い吻、くぼんだ頭部。深く長い潜水で知られる | 世界の深い外洋と海底斜面周辺 | 深海性イカ、魚類 |
ヒゲクジラとハクジラの違い
ヒゲクジラ類は上顎から垂れ下がるケラチン質のヒゲ板で、水から餌を濾し取ります。噴気孔は左右1対です。シロナガスクジラ、ザトウクジラ、セミクジラ、コククジラなどが含まれます。
ハクジラ類は歯をもち、噴気孔は1つ。頭部で高周波のクリック音を作り、反射音から獲物や周囲の形を知る反響定位を使います。マッコウクジラ、アカボウクジラのほか、イルカ類もハクジラです。ただし、歯の本数と形、潜水深度、社会構造は種類ごとに異なります。
| 特徴 | ヒゲクジラ類 | ハクジラ類 |
|---|---|---|
| 口 | 歯の代わりにヒゲ板 | 歯をもつ |
| 噴気孔 | 2つ | 1つ |
| 主な探知法 | 低周波音、視覚など。反響定位は確認されていない | 多くが高周波クリックによる反響定位を使う |
| 主な獲物 | オキアミ、カイアシ類、小型群泳魚、底生動物 | 魚類、イカ類など |
生息域は海面から深海、熱帯から極地まで

鯨類はすべての海洋に分布しますが、どの種類も世界中に均等にいるわけではありません。ホッキョククジラは海氷のある北極海、セミクジラは北大西洋、コククジラは北太平洋の沿岸と、利用する海域が比較的限られます。一方、シロナガスクジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ、マッコウクジラは複数の海洋に分布します。
高緯度で食べ、低緯度で子を産む
多くの大型ヒゲクジラは、春から夏に生産力の高い高緯度海域で集中的に食べ、冬には暖かい低緯度海域で交尾・出産します。ザトウクジラの長距離回遊が代表例です。ただし、すべての個体が同じ距離を移動するわけではなく、地域集団や年齢、繁殖状態で違いがあります。
深海を使うマッコウクジラとアカボウクジラ
深海性のイカや魚を食べるハクジラは、大陸棚の縁や海底谷、海山の周辺など、深い海へ近づきやすい場所を使います。海面で息を吸ってから長時間潜り、暗闇では反響定位で獲物を探します。
食べ物は種類によってどう違う?

大きなクジラが大きな獲物を食べるとは限りません。最大のシロナガスクジラは、数センチほどのオキアミを大量に食べます。重要なのは獲物1匹の大きさではなく、海中でどれだけ密集しているかです。
| 食べ方 | 代表種 | 仕組み | 主な獲物 |
|---|---|---|---|
| 突進濾過 | シロナガス、ナガス、ザトウ | 喉のひだを広げ、獲物の群れを水ごと取り込んでヒゲ板で濾す | オキアミ、小型群泳魚 |
| 流し濾し | セミ、ホッキョク | 口を開けてゆっくり泳ぎ、細かな餌を長いヒゲ板で濾す | カイアシ類、オキアミ |
| 海底吸引 | コククジラ | 横向きになって海底の泥と餌を吸い込み、ヒゲ板で濾す | 端脚類など底生動物 |
| 深海追跡 | マッコウ、アカボウ | 反響定位で獲物を探し、歯や吸引で捕らえる | イカ、深海魚 |
息をするのに、なぜ水中で暮らせる?
クジラは魚ではなく哺乳類なので、肺で呼吸します。頭頂部の噴気孔を海面へ出し、短時間で強く息を吐いて吸います。噴気は肺の水を吹き出しているのではなく、主に温かく湿った呼気が冷やされ、海水の飛沫とともに見えるものです。
潜水中は呼吸を止め、血液と筋肉に蓄えた酸素を節約します。心拍数を下げ、脳や心臓など重要な器官へ血流を優先する潜水反応もあります。胸郭は圧力に耐えるよう変形でき、肺内の空気を深部で減らすことで窒素の取り込みも抑えます。
子育てとコミュニケーション
雌は1頭の子を産み、脂肪分の多い乳で育てます。子は自力で泳ぎながら海面で呼吸しなければならないため、出産直後から母親との密接な行動が重要です。ザトウクジラなどでは母子が繁殖海域から採食海域へ移動します。
海中では視界が限られるため、音が重要です。ヒゲクジラは遠くまで届く低い声を、ハクジラはコミュニケーション音と反響定位クリックを使います。船舶、資源探査、建設などの人為騒音は、鳴音を覆い隠したり行動を変えたりする可能性があります。
まとめ
- クジラとイルカに明確な分類境界はなく、どちらも鯨類。
- 現生鯨類は、ヒゲ板で濾過するヒゲクジラ類と、歯と反響定位をもつハクジラ類に大別される。
- 生息域は沿岸、外洋、海氷域、深海まで幅広い。
- 食べ方は突進濾過、流し濾し、海底吸引、深海追跡などに分かれる。
- 肺呼吸をしながら、酸素を節約する潜水生理によって海で暮らす。
主な参考資料
- Society for Marine Mammalogy: List of Marine Mammal Species and Subspecies(2026年4月版)
- NOAA Fisheries: Whales(ヒゲクジラ・ハクジラと種別情報)
- NOAA Fisheries: Fun Facts About Wonderful Whales(体サイズと食性)
- NOAA Fisheries: Gray Whale(分布、回遊、保全)
- Animal Diversity Web: Balaenoptera musculus(シロナガスクジラの生態)
注:分類・分布情報は2026年7月確認時点。体長は最大級の目安で、雌雄・個体群・測定方法により異なります。画像は比較用の生成イメージで、厳密な縮尺や分布境界を保証するものではありません。

