クジラは泡の網を作り、歌で会話する?最新研究の意外な発見6選

泡の網を作るザトウクジラと音で交流するマッコウクジラを写実的に描いた研究記事のアイキャッチ クジラ

泡で網を「作る」ザトウクジラ、リズムを組み合わせて社会的にやり取りするマッコウクジラ、人間の言語と似た統計構造をもつ歌。クジラ研究は、ドローン、吸盤タグ、音響記録、解剖、地震計によって急速に進んでいます。

この記事の読み方

  • 「人間の言語に似た構造」と「人間と同じ言語」は別です。意味が解読されたわけではありません。
  • 1個体で測定した生理データは貴重ですが、種全体の平均値ではありません。
  • クジラの声を研究に利用できても、海の人工騒音による影響がなくなるわけではありません。
  • 面白い発見ほど、対象地域、個体数、測定条件を確認することが大切です。

1.ザトウクジラは泡の網を作り分ける

ザトウクジラは獲物の下を回りながら泡を吹き、立ち上がる泡のカーテンでオキアミや小魚を囲います。2024年のRoyal Society Open Science研究は、東南アラスカで単独採食する個体をドローンと吸盤タグで追跡し、泡の網の構造を立体的に測りました。

ザトウクジラが潜降、気泡の円筒形成、中央からの突進を行う泡網採食の写実的な連続図
ザトウクジラは気泡の輪の数、大きさ、深さ、間隔を調節する

クジラは輪の数、網の大きさと深さ、泡同士の間隔を調整していました。研究者は、外側の輪で囲った獲物を内側へ集めることで、1回の突進で得られる獲物密度を理論上平均7倍以上に高め得ると推定しました。呼吸数や運動からは、網を作るための明らかな追加エネルギー増加は確認されませんでした。

研究では70頭を超える個体の泡網行動が観察されていますが、「7倍」は獲物が逃げないと仮定した面積比に基づく理論値です。実際の摂取量を直接7倍と測ったわけではありません。それでも、外部に作った構造を目的に応じて調整するため、泡網を「製造される道具」とみなす根拠になります。

2.マッコウクジラのクリック列には組み合わせ規則がある

マッコウクジラは、数個から数十個のクリックを並べた「コーダ」を社会的なやり取りに使います。2024年のNature Communications研究は、東カリブ海の一つの文化的クランから記録された8719個のコーダを解析しました。少なくとも60頭の声が含まれるデータです。

従来から知られるリズムとテンポに加え、会話の流れに合わせて長さを滑らかに変える「ルバート」と、末尾へ追加されるクリック「装飾」が見つかりました。これら4つの特徴が組み合わさり、従来想定より大きなコーダのレパートリーを作っていました。

歌うザトウクジラとクリック列を交わすマッコウクジラの群れを写実的に比較した研究図
歌には言語に似た統計構造があり、クリック列には組み合わせの体系がある

研究者は比喩的に「マッコウクジラの音声アルファベット」と呼びました。しかし、各組み合わせの意味は大部分が分かっていません。「クジラ語を翻訳した」「文法を完全解読した」という段階ではなく、音の構造と情報容量が従来より複雑だと分かった研究です。

3.ザトウクジラの歌に「言語に似た統計構造」

2025年のScience研究は、ニューカレドニアで8年間記録したザトウクジラの歌に、人の乳児が連続音声を区切る仕組みを模した解析を適用しました。音の並びで切り替わり確率が下がる場所を境界とし、繰り返し現れる単位を抽出しました。

単位の出現頻度には、人間の多くの言語で見られるジップ則に似た分布があり、よく現れる単位ほど短い傾向も見つかりました。社会学習によって複雑な音列を正確に伝える際、学びやすい統計構造が独立に生まれた可能性があります。

ただし、歌の単位が人間の「単語」と同じ意味をもつことは示されていません。ザトウクジラの歌は主に雄が繁殖期に歌う文化的な音列で、人間言語との共通点は統計構造と学習過程です。「言語そのもの」より、人間の音楽に近い比較が適切かもしれません。

4.ヒゲクジラは改造された喉頭で歌う

ヒゲクジラがどう声を作るかは、巨大な生体を直接調べられないため長く謎でした。2024年のNature研究は、死亡したイワシクジラ、ミンククジラ、ザトウクジラの喉頭を使った実験、解剖、計算モデルを組み合わせました。

ヒゲクジラは、U字形の軟骨と脂肪性の組織を含む独特の喉頭構造を振動させ、空気を体内で循環させて声を作ると示されました。空気を外へ吐き続けずに発声できるため、水中生活に適しています。

一方、この仕組みは出せる周波数と深さに生理的な上限があります。その範囲が船舶騒音と重なるため、クジラが単純に周波数を大きく変えたり、もっと深く潜って騒音を避けたりするのは難しいと研究者は指摘しました。

5.シロナガスクジラの心拍は潜水中2回/分まで低下した

2019年、研究者は野生の雄のシロナガスクジラ1頭に、吸盤式の心電図・深度タグを装着しました。採食潜水中の心拍数は通常1分間に4〜8回、最低2回まで下がりました。浮上後は25〜37回へ上がり、失った酸素を短時間で補いました。

潜水するシロナガスクジラの心拍変化とナガスクジラの声が海底地層で反射する仕組みを写実的に並べた図
潜水中の心拍と、クジラの歌を利用した地殻探査

潜水中に心拍を下げると、血液中の酸素消費を抑えられます。一方、獲物を水ごと飲み込む突進時には最低値の約2.5倍へ増えました。弾力性の高い大動脈弓が、拍動間隔の長い間も血流を保つと考えられます。

重要な注意点は、測定が1頭・約8.5時間だったことです。「全シロナガスクジラの心拍は必ず2回」とは言えません。測定の難しい世界最大動物で、潜水、採食、浮上に応じた心拍変化を初めて直接記録した点が重要です。

6.ナガスクジラの歌で海底下の地層を調べられる

ナガスクジラは約20Hzを中心とする強い低周波パルスを規則的に繰り返します。2021年のScience研究は、海底地震計に記録された歌が海底で反射・屈折する波を解析し、堆積物、玄武岩、下部地殻の構造を推定しました。

通常の海底地殻探査ではエアガンなど人工音源を使います。クジラの声は位置や発声を制御できず解像度も低いため置き換えにはなりませんが、過去の地震計記録から新しい情報を引き出す補助音源になり得ます。2025年には沿岸の陸上地震計でナガスクジラを検出・位置推定する研究も報告されました。

発見 主なデータ 分かったこと 限界・注意
泡網の製造 東南アラスカ、70頭超の観察、ドローン・吸盤タグ 輪数、深さ、間隔を調整し獲物を濃縮 7倍は理論上の密度推定で、摂取量の直接測定ではない
コーダの組み合わせ 8719コーダ、少なくとも60頭 リズム、テンポ、ルバート、装飾を組み合わせる 多くのコーダの意味は未解読
歌の統計構造 ニューカレドニアの8年間の歌 言語に似た頻度分布と学習しやすい構造 単語の意味や人間型言語を証明していない
喉頭発声 3種の摘出喉頭、解剖、計算モデル 水中発声を可能にする独特の振動機構 全種の生体内条件を直接測ったわけではない
極端な心拍変化 シロナガスクジラ1頭、約8.5時間 潜水中最低2回/分、浮上後最大37回/分 1頭の記録で種平均ではない
歌による地殻探査 海底地震計3台の記録 声の反射・屈折から海底下構造を推定 人工音源より低解像度で、発声位置を制御できない

研究方法も進化している

大型クジラは、水中で長距離を移動し、観察時間も短いため研究が難しい動物です。現在は、上空から体長と行動を測るドローン、体を傷つけずに数時間装着する吸盤タグ、海中の声を長期間記録するハイドロフォン、個体を見分ける写真識別、少量の皮膚から調べるゲノム解析を組み合わせます。

どの方法にも見えない部分があります。ドローンは深海を見られず、音だけでは発声個体が分からない場合があり、タグを付けられる個体は限られます。複数の方法を重ねることで、行動、音、生理、環境を一つの物語として検証できます。

まとめ

  • ザトウクジラは泡網の輪数・大きさ・深さ・間隔を調整し、採食道具として使う。
  • マッコウクジラのコーダは4つの音響的特徴を組み合わせるが、意味の多くは未解読。
  • ザトウクジラの歌には人間言語に似た統計構造があるが、言語そのものとは限らない。
  • ヒゲクジラは独特に改造された喉頭で声を作り、その仕組みは人工騒音回避にも限界を与える。
  • 1頭のシロナガスクジラで、潜水中最低2回/分から浮上後37回/分の心拍変化が記録された。
  • ナガスクジラの低い歌は、海底下の地殻を調べる補助的な地震波源にもなる。

主な参考論文

注:研究情報は2026年7月確認時点。統計的な類似を、人間と同じ言語・感情・意図の証明として解釈しないよう注意が必要です。

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