ゾウは坂道を避ける?157頭のGPSから見えた「省エネ移動」のひみつ

急な山を避け、なだらかな草地を歩くアフリカゾウの群れ ゾウ

動物園でゾウを見ていると、ゆっくり、のんびり歩いているように見えます。

でも、野生のゾウにとって「どの道を歩くか」は、とても大切な問題です。大きな体を動かすにはエネルギーが必要ですし、毎日食べ物を探し続けなければなりません。

では、目の前に急な坂道となだらかな道があったら、ゾウはどちらを選ぶのでしょうか。

2025年に発表された研究から、ゾウたちの意外な“省エネ移動”が見えてきました。

大きなゾウにとって「歩くこと」は大仕事

ゾウは地上で最も大きな動物です。その体を運びながら広い草原を移動するには、たくさんのエネルギーを使います。

しかも、ゾウが食べる草や葉は、一口で大きなエネルギーを得られる食べ物ではありません。食べ物を探すために歩きすぎると、せっかく食べても、移動で多くのエネルギーを使ってしまいます。

そこで大切になるのが、次の2つです。

  • そこまで歩くために、どれくらいのエネルギーを使うか
  • 到着した場所で、どれくらい食べ物を得られるか

人間でいえば、急な坂を上る近道と、少し遠回りでも平らで歩きやすい道を比べるようなものです。

157頭のゾウをGPSで調べた

研究チームは、ケニア北部に暮らすアフリカサバンナゾウ157頭の移動を調べました。

使われたのは、1998年から2020年までの約21年間に集められたGPSの記録です。研究者は、ゾウが実際に歩いた道と、その近くにあった「選ぶこともできた別の道」を比較しました。

さらに、地形の傾斜とゾウの体重から移動に必要なエネルギーを見積もり、植物の豊かさや水場までの距離も重ね合わせました。

このGPS調査で中心になったのは、総移動距離や時間帯ではなく、「ゾウがどのような地形や環境を選んだか」です。

つまり、「ゾウはどこを歩いたか」だけでなく、「なぜその道を選んだように見えるのか」まで調べたのです。

GPS首輪と地形・植物・水場の情報からゾウの移動経路を調べるイメージ
研究では、GPSで記録した移動経路に、地形の傾斜、植物の豊かさ、水場などの情報を重ねて分析しました。

94%のゾウが大変な道を避けた

分析の結果、157頭のうち148頭が、移動に多くのエネルギーが必要な場所を避けていました。割合にすると約94%です。

反対に、わざわざ移動コストの高い場所を好んだゾウはいませんでした。

また、約93%のゾウが、植物が豊かで食べ物を得やすい場所を選ぶ傾向を示しました。

この結果から、ゾウの移動には、単なる「近い・遠い」だけではなく、坂のきつさと食べ物の量が関係していると考えられます。

速く移動するときほど、楽な道を選ぶ

研究では、ゾウの動きを「ゆっくり」「中くらい」「速い」の3つに分けて分析しました。

移動コストの高い場所を避けたゾウの割合は、ゆっくり動くときで74%、中くらいの速さで87%、速く移動するときでは93%でした。

速く、遠くへ進もうとするときほど、急な坂や歩きにくい場所を避ける傾向が強くなったのです。

大きな体を持つゾウにとって、少しの坂でも、長い旅の中では大きな負担になるのかもしれません。

食べ物と移動コストを天びんにかける

この研究で見えてきたのは、ゾウが「できるだけ楽をしている」ということではありません。

大きな体で生きていくために、移動で使うエネルギーと、食べ物から得られるエネルギーのバランスを取っているような行動パターンです。

坂道を歩く負担と植物から得られるエネルギーを天びんで表したイラスト
ゾウの移動は、歩くために使うエネルギーと、食べ物から得られるエネルギーのバランスに影響されます。

水場については、すべてのゾウが同じ選び方をしたわけではありません。水の近くを好むゾウもいれば、遠くまで移動するゾウもいました。季節や体の状態、群れで暮らしているかどうかなどによっても、選ぶ道は変わる可能性があります。

ゾウには、1頭ずつ違う行動の特徴があるのです。

ゾウは頭の中で道を計画しているの?

ここで注意したいことがあります。

この研究は、ゾウが人間のように地図を思い浮かべて、「この坂は大変だから別の道へ行こう」と考えていることを直接証明したものではありません。

GPSで記録された実際の行動が、エネルギーを節約できる道を選ぶパターンと一致していた、という研究です。

ゾウが地形をどのように覚え、どの時点で進む道を決めているのかを知るには、さらに詳しい研究が必要です。

この研究はゾウを守ることにも役立つ

ゾウが暮らす地域では、道路や町、農地などによって生息地が分かれてしまうことがあります。そのため、離れた生息地をつなぐ「野生動物の通り道」を作ることが重要です。

しかし、地図の上で場所をつなぐだけでは、ゾウにとって使いやすい道になるとは限りません。

急な坂が少ないこと、食べ物を得られること、水場に近づけること、人との衝突を避けられること。ゾウが実際に選びやすい条件を考えることで、より安全で役に立つ通り道を計画できる可能性があります。

まとめ

今回の研究では、157頭のアフリカゾウのGPS記録から、多くのゾウが移動に大きなエネルギーを使う場所を避け、植物の豊かな場所を選んでいることが分かりました。

ゾウにとって大切なのは、必ずしも一番短い道ではありません。

大きな体で生きていくために、「無理なく歩けて、食べ物にたどり着ける道」を選んでいるようです。

今度、動物園でゾウが歩く姿を見たら、道の傾きや足元にも注目してみてください。ゾウなりの歩きやすい道を選んでいるかもしれません。

参考にした科学論文

コメント

タイトルとURLをコピーしました