木を倒すゾウが、森の炭素を増やす?マルミミゾウと大きな木のひみつ

中央アフリカの熱帯雨林を歩くマルミミゾウと大きな木 ゾウ

ゾウは、森の木を食べたり、枝を折ったり、ときには小さな木を倒したりします。

それだけ聞くと、「ゾウは森をこわしているの?」と思うかもしれません。

ところが、中央アフリカの熱帯雨林を調べた研究では、マルミミゾウがいることで、森にたくわえられる炭素が増える可能性が示されました。

木を減らすゾウが、なぜ森の炭素を増やすのでしょうか。森の中で起きている、少し不思議なしくみを見てみましょう。

主役は森に暮らす「マルミミゾウ」

今回の研究の主役は、中央アフリカなどの森林に暮らすマルミミゾウです。

マルミミゾウは、アフリカサバンナゾウとは別の種類です。大きな耳で草原を歩くゾウのイメージとは違い、木が多く、見通しの悪い熱帯雨林で暮らしています。

葉や果実、樹皮などを食べながら森を移動し、体や鼻で植物を押し分けます。そのため、マルミミゾウが通る場所では、小さな木が食べられたり、折れたり、踏まれたりします。

「バイオマス」って何?

研究には「バイオマス」という言葉が出てきます。

この研究でいう地上部バイオマスは、地面より上にある木の幹、枝、葉などを合わせた重さのことです。根の重さは含まれません。

木は、空気中の二酸化炭素を取り込み、光合成をして育ちます。その炭素の一部は、幹や枝の中にたくわえられます。

つまり、森の地上部バイオマスが大きいほど、木の中にたくわえられている炭素も多いと考えられます。

木の数が少ないのに、森が重くなる?

ここで大切なのは、「木の本数が多い森ほど、必ずバイオマスも大きい」とは限らないことです。

細い木がぎゅうぎゅうに生えていると、木どうしが光、水、土の中の栄養、育つための空間を取り合います。

教室にたくさんの人が入りすぎると、全員が自由に動きにくくなるのと少し似ています。

マルミミゾウが小さな木を食べたり傷つけたりすると、森の木の密度が下がります。すると、残った木は光や水を使いやすくなり、より大きく育てるようになります。

研究モデルでは、こうした変化によって、成長はゆっくりでも、太くて木材の密度が高い木が残りやすくなると考えられました。

森全体では木の本数が少なくなっても、1本ずつが大きく重くなるため、地上部バイオマスが増えることがあるのです。

細い木が密集した森と、ゾウがいる太い木の多い森を比べたイラスト
研究モデルが示した森の違いを、分かりやすく表したイメージです。実際の森が必ずこの見た目になるという意味ではありません。

森の中では何が起きているの?

研究が示した流れを、簡単にすると次のようになります。

  1. マルミミゾウが小さな木を食べたり、折ったりする
  2. 木どうしの混み合いが少なくなる
  3. 残った木が、光・水・空間を使いやすくなる
  4. 大きく、木材密度の高い木が育ちやすくなる
  5. 森の木にたくわえられる炭素が増える
ゾウが小さな木を減らし、残った木が光や水を得て大きくなる流れ
ゾウが小さな木を減らすと、残った木が光・水・空間を使いやすくなり、長い時間をかけて太く育つ可能性があります。

ただし、数日や数年ですぐに大木ができるわけではありません。森の世代交代を通して、長い時間をかけて表れる変化です。

研究者は森をコンピューターの中に再現した

研究チームは、「生態系モデル」という方法を使いました。

これは、木の成長、木どうしの競争、ゾウが木に与える影響などをコンピューターで計算し、森が長い時間の中でどのように変わるかを調べる方法です。

さらに研究者たちは、計算結果を中央アフリカにある2か所の低地原生林の調査データと比べました。

その結果、1平方キロメートルに0.5~1頭ほどのゾウがいる条件では、森の状態が長い時間をかけて落ち着いたとき、地上部バイオマスが1ヘクタール当たり26~60トン多くなると推定されました。

1ヘクタールは、たて100メートル、横100メートルの広さです。

マルミミゾウがいなくなるとどうなる?

モデルでは、マルミミゾウがいなくなった場合、中央アフリカの熱帯雨林の地上部バイオマスが約7%減る可能性が示されました。

ゾウがいなくなると、小さな木が増えて森が混み合い、大きくて重い木が育ちにくくなると考えられるためです。

マルミミゾウは、森に住んでいるだけではありません。食べる、歩く、木を押すという毎日の行動によって、森の形そのものを変えているのです。

このように、まわりの環境を大きく変える生き物は「生態系エンジニア」と呼ばれることがあります。

「ゾウが多いほどよい」という意味ではない

ここで、研究の数字を読むときの注意点があります。

今回の結果は、中央アフリカの森林をもとにしたコンピューターモデルによる推定です。森全体の炭素を長期間にわたって直接量り続けた実験ではありません。

また、ゾウが増えれば増えるほど、炭素もずっと増え続けるという意味ではありません。ゾウの数、植物の種類、雨の量、土、人間による伐採などによって結果は変わります。草原で暮らすアフリカサバンナゾウにも、そのまま当てはめることはできません。

研究が示したのは、「中央アフリカの森林では、マルミミゾウによる適度な働きかけが、大きく重い木の多い森につながる可能性がある」ということです。

まとめ

マルミミゾウは、小さな木を食べたり折ったりします。一見すると森をこわしているように見えますが、その行動によって木の混み合いが減り、残った木が大きく育ちやすくなる可能性があります。

大きく木材密度の高い木が増えると、森の地上部バイオマスが大きくなり、木の中にたくわえられる炭素も増えます。

ゾウと森は、別々に生きているのではありません。

ゾウが森を変え、森がゾウに食べ物や暮らす場所を与える。マルミミゾウは、長い時間をかけて森をつくる仲間の一員なのです。

参考にした科学論文

※この記事のイラストは、研究で示されたしくみを子ども向けに分かりやすく表したイメージです。実際の調査写真や、モデルの計算画面ではありません。

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